美女と弱獣
 
 
それはもうひとつのクリスマス、聖堂から澄んだ鐘の音が鳴り響く夜、ありったけの気持ちを込めて貴方に―――



『Especially for you』


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さる年の十二月二十四日、今日はクリスマス・イヴだ。


祭りごとがお得意な黒の教団では、やはり、毎年恒例の『クリスマス前夜パーティー』が行われた(更に明日は明日で、僕の誕生会を兼ねた盛大な本番パーティーをやるらしい)。


料理長のジェリーが腕を揮った至り料理をシャンパン片手に堪能し、祝宴を存分楽しんだ団員たちは、お開きの頃合い、十時半を回ると皆それぞれ自室に戻っていった。


僕は今、ひとりで部屋にいる。


ベッドの上に座ってうなじを垂れている。


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『今夜一緒に過ごしてください』


…たったそれだけの台詞が何で彼女に言えない。


…僕はどうしてこうも意気地なしなんだ。


準備したラウンドテーブルの上にはクリスマス用のデコレーションケーキとシャンパンジュース(僕はお酒が呑めない)、そしてフルートグラスが二つ、寂しそうに置かれている。


本当はパーティーが終わったあと、この部屋にリナリーを招くつもりだった(一応言っておくが変な下心とかは一切ない)。


ただ二人きりでこの神聖な夜を過ごしたかった。


それなのに僕ときたら、結局リナリーに何も言い出せなかった。


男は優しいだけじゃだめだ。


ときにはぐいぐい引っ張っていく強引さも必要だ。


それは熟知している、頭では十分理解している。


「あ〜、もうっ!」


全く僕ってやつは、勇気の欠片もないへなちょこ男だよな…。


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どんどんどん。


自らの劣弱さ、あまりの情けなさに悶々としていると、だしぬけに扉がノックされた。


(もしかしたら…リナリーかもしれないっ…!)


もしそうだったら…、自分でも図々しい考えだと思うけど、そんな期待を抱いた僕はすぐさまベッドから飛び降りる。


扉の方に向かい、はやる気持ちを抑え、そぉっと取っ手を掴んだ。


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「よっ、アレン。」


開けた扉の先に立っていたのは予想だにしていなかった人物だ。


燃えるような赤毛、右目には黒い眼帯、そして橙色のマフラー巻いている彼。


ラビはその手に何か、薄汚いガラクタみたいなものを抱え込んでいる。


彼の手元を良く見るとそれは赤と白のゲーム機体だった。


今じゃ化石と化した廃れもののファミ○ンと専用のコントローラー二つ、それにス○パーマリオのカセットまで持ってきている。


「どうせ今、ひとりなんだろ〜?


 いとしのリナリー姫に振られちゃったんだろ〜?」


嫌みたっぷりな顔つきでにやにや笑ったラビが、なかなか痛い傷(ところ)を衝いてくる。


きっぱり振られた訳じゃないけれど、はっきり告白もできないようじゃ、どっちにしたって同じことだろう。


「…で、ラビは何しに来たんです?」


「実を言うとオレも暇なんさ〜。


 だから二人で一緒にスーパーマ○オでもやろ〜ぜ。」


人がこんな…どんより沈んでるってときに…


へらへら軽薄そうに笑うラビの間抜け面を見ていると、とにかくむかつく、めっちゃ腹が立ってくる。


「いえ、結構です。


 ひとりで懐旧に耽りながら二次元ピーチ姫と仲良くイヴを過ごしてください(ついでに初っぱなのクリボーに瞬殺されてしまえ!)。」



僕はきっつい捨て台詞を吐いて思いっ切り扉を閉めてやった。


小学生じゃあるまいしイヴにマリオ兄弟なんぞやれるかっ!(ファイナルフ○ンタジー系とかならまだしも…)


この神聖な夜にわざわざそんなものなんかやりたくない。(幾ら仮想だとしても、そもそも十九世紀にファ○コンがあること自体おかしいじゃないか)


男同士で過ごすイヴなんて、ちっとも甘美じゃない、全然ロマンチックじゃない、っていうか寧ろ気持ち悪いだろう。

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どんどんどん。


心のなかでラビに半ば八つ当たりのような文句をつけていると、またしても部屋の扉がノックされた。


もうひとりでいたい、僕に構わないで欲しい、頼むから放っておいて欲しい。


…今度はだれだ。


『神田ユウ』。


前髪パッツン人でなし(かれ)がここに来る可能性はかなり低確率だろうけど、万一の場合に備えて、ガツンと来る決め台詞を考えておくべきだよな…。


『貴方は数日早い年越し蕎麦でも啜りながら、今年一年間に叩いた悪たれ口をしっかり反省してください。』


よしっ、これでばっちりだ!


パッツン男用の抜かりない対処を整えたあと、いざ出陣とばかりに、扉を勢い良く開け放す。


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「夜分遅くにごめんなさい。」


「え(あれれ)?」


そこにいる人姿を見て、僕の目は点のようになった。


ラビに次いでこの部屋を訪ねてきたのは、サンタ帽を被ったきれいな顔立ちの少女、大きな瞳で僕を窺い見ているリナリーだった。


「…あ…どうして…」


「パーティーの間ね、今夜のこと、誘われるのをずっと待ってたのよ…?


 なのにアレンくんったら、何にも言ってくれないんだもん…


 だから私…」


僕はなお驚いた。


頬を赤らめてそう呟く彼女の装いは、何というか奇抜で、お色気むんむんの悩ましげな仮装(コスチューム)だ。


「リナリー…いったい…それは…」


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「アレンくん、メリークリスマスっ!」


満面笑顔になったリナリーがめいっぱい抱きついてきて、身体のバランスを崩した僕と彼女はそのまま床に、どう、と二人して倒れてしまう。


「あのね、今すぐアレンくんに渡したいプレゼントがあるの。」


リナリーに押し倒された体勢(かたち)になりながら、僕はゆっくり聞き返した。


「まさか…それって…」


あられもない格好の彼女が、男(ぼく)を挑発するように生めかしい笑みを浮かべる。




「…そう、『わ・た・しv』よ。」


や…やばい…目のやり場に困る…。


僕は視線をゆらゆら漂わせながら生唾を飲み込んだ。


あたふた慌てる僕をお構いなしに、リナリーは薄紅のついた唇を、すっと首筋から喉元へ這わせてくる。


「ちょ…ちょっと待ってくださ…ふがっ…


ぷにぷに柔らかくて豊満なあれに口元を塞がれてしまって上手く喋れない。


そうやって身体を擦り寄せてきた彼女の肌からは、かすかにアルコールの匂いがした。


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そうか…リナリー…君はそこまでして僕に…―――


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くっそ〜、女の子に恥をかかせるなんて男として失格だ。


…今年の大晦日こそ必ず…僕から愛の逆襲(リベンジ)をするぞ!


虚弱ヘタレ体質の僕、頑張れッッッ!!!(ってか、こんなことがもしコムイさんにばれたら半殺しの刑、ほぼ確定だよな…)
 
 
†2009年度・Xmas企画第二弾+アレンハピバ記念です(´▽`)

 
ヘタレアレン万々歳〜♪


それにしても我ながら酷い悪文ですね、第一弾企画『Winter Snow』とは対極的です、あっはっはっはっ(乾笑


…キャラ崩壊気味のやりたい放題でスイマセン(^_^;