Joyeux Noel...2017Xmas...
 
 
この夜、教団の中心である本部にて、年に一度の盛大な祭事が繰り広げられていた。


ホールの側壁に色彩感覚溢れる沢山のオーナメントや、大きなもみの木には鮮やかな彩飾、テーブルの上に、ジェリーさんが腕を振るった美味しそうな料理がずらりと並び、蓄音機からは弾むような音色が聴こえてくる。


今年も神人イエス・キリストの聖誕を祝う前夜祭は、賑わしい声で溢れかえっていた。


そんな中、私は沈んだ顔で、大広間の端っこに佇んでいた。


兄さん、ラビや神田、ミランダ、皆が話し掛けてくれたけれど、会話が弾むことはなかった。


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…そう、悩ましいことがあったから。


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君が分け隔てなく、誰にも、教団の女の子にも、気さくに話しているのが、気になる…―――


君の誰かに向ける笑顔が、素敵過ぎるの…―――


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「…あれ?


 リナリー、如何したんですか?」


そんな私に、『君』の声、アレン君の声が掛かった。


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「…別に、何でもないよ。」


多分、今の私は、ぶんむくれているに違いない。


そんな私の内心を、知ってか知らずか。


彼の灰白色の、硝子玉のような瞳は、私を心配そうに覗き込んでくる。


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「僕、何か、リナリーを怒らせてしまうことをしましたか、ご免なさい…。」


折角のイヴだと云うのに、私は…


「理由も分からないのに、謝るの、変だよ…。」


如何して私は何時も、こう、素直な気持ちを伝えられず、天の邪鬼を言うのだろう。


こんなじゃ嫌われて当然、自分でも良く理解している。


心の余裕がない自分は、本当に大嫌い。


「…確かに、僕は鈍感かも知れないです…。」


すらっと伸びた指先が、私に向けられて、頬にそっと触れられる。


…あ…


彼を意識してしまって、心臓の鼓動が高鳴る。


それに気付かれたくないが為に、恥ずかしさを誤魔化そうと、目線を下に逸らす。


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「…リナリー…」


「?」


不意に手首を捕まれて、大広間のカーテン裏に追いやられ、アレン君と二人、姿を隠すような形になった。


端正な顔が私に近付く、それもとても至近距離に。


「伝えてくれないと、分からないことも有ります…。


 好きな人をわざと怒らせたいだなんて、誰も思いません…。」


困惑した面持ちが、悲しそうに、私を視ている。


そんな目で見ないで、ひねくれ者の私は、きっと醜い。


「ねえ、お願い、リナリー…。」


小さく囁かれる声に、耳元が擽ったくなる。


私は咄嗟に、がばっと、アレン君の胸に顔を隠した。


「…リ、リナリー?」


「…私の顔、見ないでっ!」


こんなことを考えている顔は、真っ赤だろうし、どんな表情なのか、自分でさえ想像もつかない。


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「…あのね、アレン君、女の子に少し優し過ぎる…。」


「…え?」


彼は、暫しの沈黙を過ぎてから、私の髪を、壊れ物でも触れるように、優しく撫でてきた。


「…貴方は、そんなことで、悩んでいたんですか?」


『そんなこと』って…


私には、とっても重要なことなのに…


ちくりと何かが刺さるようだった。


やっぱりアレン君は、何も分かってない…―――


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アレン君が言う。


「…そうですか、それなら僕達は、似た者同士だった訳ですね。」


えっ、似た者同士って…?


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「僕だっておんなじです。


 今日に限らず、リナリーがラビや神田に優しい所、気になって気になって仕方がないんですよ?」


ラビ、神田…?


「…そんなこと、な…


「いいえ、そんなこと、有るんです。


 君を独り占めしたくて、毎日、毎日、嫉妬の繰り返しです。


 僕のこんな汚い部分、リナリーは見たいですか?」


「え、え、ええと…」


皆が聞いたら、誰もが赤面するような言葉を、冷静な顔で言う彼。


「…っ…」


「リナリーが不安なら、君が『僕のもの』だって、誰彼構わず公言しますよ。」


途端に艷々しくなった視線が、私の視線と絡む。


…や…だ…


彼の知らない一部分を、垣間見てしまったような気がして、胸のどきどきが止まらない。


仄かに怖くて、けれど嬉しくて…


「リナリー、大丈夫です。


 僕は身も心も、『君だけのもの』だから。


 リナリーも、僕と一緒の気持ちで、いてくれますよね?」


「…うん…。」


私だって、勿論のこと、同様の気持ちを抱いている。


「貴方の柔らかい唇も、嫋やかな身体も、その胸の奥の心も、全部、僕のものですよね?」


「…うん…って…」


…え、ええっ!?


彼は、さも扇情的で、意地悪そうな笑みを浮かべている。


「…それならリナリーの『全部』、今夜のイヴに貰っちゃいます。」


吐息のように、ふわっと発せられた言葉。


「…ううっ…」


それ等の深い意味を悉く察してしまった私は、肯否を言わず、顔を赤く紅潮させたまま、瞳をぎゅっと閉じて、彼の両腕に獅噛(しが)みついた。


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こんな『爆弾発言』をさらりと言ってしまうアレン君に、これからも私は、絶対、勝てない気がする…


これより起こりうるであろう、密めやかなイヴ、その夜のことを考えて、私は思考はぐるぐる回り、唯々悶々としてしまうのであった…―――

 
 
†めちゃめちゃ早いですが、2017年、アレリナクリスマス絵です;