輪形
『Mobius loop(メビウスの輪)』
赤帯の片方を捩って、端同士をくっつかせると裏表のない形ができあがる。
それは表裏一体だ、切ろうとしても切り離せない。
それは回帰する、ぐるぐる旋回してやがて廻りかえる。
それは不可思議な図形(かたち)をしている、まるで今の私たちみたいに。
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『やぁあ!』
灰煙のような砂埃のなか、私は薄暗い空に舞い上がった。
跳躍した脚部に粒状の光が集まり、煌々と目映いそれは、凄まじい轟音を立てて異形のものを墜落させる。
私は体を翻しながら墜ちていく異形の顔を眺め、地に足をつけると次の標的(ターゲット)のもとに向かった。
AKUMAを狩るエクソシスト、すなわちそれは神に選ばれた適合者、イノセンスを自在に扱える者。
下肢(あし)に武装された神の結晶は、この身体を戦火に誘う。
私は戦い続けなければならない、私自身に何が起こったとしても。
自分がいられる場所は教団だけ、ここに生きている意味はただそれだけ。
たとえ僅かな間でも一瞬の油断こそ命取りになる、だから余計な思考は頭から排除する。
何も考えず何も思わず、宙を舞って、ひたすら双脚を振るう。
私は黒の聖職者『リナリー・リー』、それ以上でも以下でもない。
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嵐の後のような静けさが訪れた。
今は崩れ落ちて、残骸と化したそれらを見渡しながら、私は不快感によって催される吐き気を飲み込んだ。
戦いのなかに身を置いているときだけ、この想いから解放される。
課せられた使命を果たしているときだけ、何も考えず何も思わず、そういられる。
けれどそれが終われば…。
任務をし遂げてひとりになったとき、どうしようもなく不安に襲われる。
次々と浮かび上がる疑問たちが胸を締めつけて、どうしようもなく苦痛が押し寄せる。
「…きもちわるい…。」
それは目の前に転がる見慣れた残骸のせいじゃない、エクソシストという逃れられない使命への恐怖でもない。
あの人を憎んでいる。
―――いいえ、そんなことない。
そのことに激昂している。
―――違う、そうじゃない。
信じていた人に裏切られた絶望感。
じわじわと滲み溢れるこの気持ちは、それに近いものかもしれない。
…どうして、どうしてなの?
どんなに腕を伸ばしてみても、彼には届かない。
胸の奥深いところに隠された彼の心に触れられない。
近づこうとすればするほどかけ離れてしまう私たち、どうすればその終わらない螺旋を止められる?
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生ぬるい夜風が流れて、尽きた灰塵の混じった砂がまた煙を立てる。
私は無造作に存在する壊れた亡骸を見つめた。
ぐずぐずに損壊し、もとの形を留めていない異形は、自分の未来の姿のようだ。
舌にざらりと嫌な感触がある。
口に入った砂石は苦味がして、感情の亢進から一気に冷まされる。
気持ちの抑揚が消えて、ありとあらゆることの感興はことごとく削がれてしまった。
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このままじゃ私…壊れてしまいそう…
それなら心まで壊してくれればいい…貴方のその手で…
『相反する唇同士、貪愛と悲恨(その)二重螺旋は決して終わらない―――』
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