愚ノ監・陰謀に嵌められた花婿


注:下部文面は『黒ノ監』の冗話になります、恐ろしく文体が壊れており、人物が突飛な行動を取りますので、世界観や迫真性を重視されるお方の閲覧を推奨出来ません。(『本編』及び『黒ノ監』とは切り離してお読み下さい)
※某アニメ、某ドラマ、某映画、某ゲームのパロディが、盛沢山出て来ます;
 
 
 
 
 
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‥‥‥僕は‥‥‥やっと君を‥‥‥守ることができた‥‥‥。
 
 
‥‥‥君を守れたんだ‥‥‥ぼくは‥‥‥。
 
 
‥‥‥リナリー‥‥‥―――


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沈んでいく…僕は沈下していく…


美しかった少女…君の笑顔だけを思い浮かべながら…


堕ちる…深い闇の淵底に…―――


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ビッカーーーン!!!



それは突然、そう、本当に突然のことだった。


固く目を閉ざす僕の顔に、突如、眩しい光線が当てられた。


スポットライトのような目映い光が耐えきれず、僕は堪らなくなって瞼を開ける。


…ここは天国か?


…遂にあの世へ行ったのか?


…などなどと、しみじみ感慨に耽っている僕に、物柔らかな男の声がかかった。


「いやぁ…素晴らしい…君の覚悟は実に素晴らしいよ…アレン君…。」


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…はぁ!?


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開けた視界に映るのは、僕が飛び出した横断歩道と見慣れた街並みで、何故かそこに、品格がある紳士風の男性が立っていた。


「…あれ?


 僕…死んだんじゃ…」


そう言えばどこも痛くない。


あれだけ大きな貨物トラックに思いっきし跳ねられたというのに、僕の体は何ともなく、どこもかしこもぴんぴんしているではないか。


「ふふふ、驚いたかね?


 つまりは、こういうことなんだよ…。」


襟元にブラックタイをばっちり決めた、タキシード姿の男はそう言うと、右手の指をぱちんと鳴らして気持ち好い音を響かせた。


その指パッチンに合図されたかのごとく、街路樹の裏から二つの物影がこそこそ動いて、こちらに向かってくる。


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影のひとりはリナリーだった、何だかとても気まずそうな笑顔を浮かべている。


そして僕はリナリーの横にいる人物を見た。


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「!!!


 お…お化けっ…南無阿弥陀仏っ…南無妙法蓮華経っ…アーメンっっっ…!!!」


それは吃驚のほかでもない、驚くことにその人物は、癌で病死したはずのジェシカさんだった。


危うく卒倒しそうになった。


幽霊とか妖怪とか、昔からそういう類のものは大の苦手なのだ。


「おにいちゃん、しっかりしてっ!」


口からだらしなく泡を吹いた僕は、リナリーの豪快な連続張り手をお見舞いされた。


た…頼むから、もう少し優しく心配して…。


「…驚かせちゃって、ごめんなさいね。」


リナリーの母親…死んだはずのジェシカさん…


以前会ったときと比べると喋り方も顔つきも違う…全くの別人になっている…


ジェシカさんはさらに僕を驚倒させた。


あまり見てくれの良くない(と言ったら失礼だが)顔に手を置いて、何をするかと思ったら、顎の皮をべりべり剥がし始めたのだ。


それはさながら江戸川○歩の、明智小五郎のようだ、怪人二十面相のようだ、とにかくものすごい神技だ。


たちどころに変装を解いて、露わになったジェシカさんの顔は、リナリーに瓜二つの麗しい美相をしていた。


呆気にとられてものも言えない僕に、リナリーが言う。


「…ごめんね、おにいちゃん。


 …これって全部、お芝居だったのよ。


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ドッカーーーン!!!


頭のなかで何か破裂する音がした。


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と、思ったのは僕の思い違いみたいだ。


轟きは確かに聴こえた、それも僕の後方から。


…恐る恐る背後を振り返ってみる。



どうやら小道具の張りぼてが崩れたらしい…って、この街並み舞台装置(セット)だったんかいっ!


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好いさ、こんな奇想天外な結末でも別に好い、だけれど理由を聞かないと納得できない。


どうして彼女たちは、僕を陥れなければいけなかったのか。


僕はまことしやかな面持ちになって、タキシードの男の方を見やった。


「…何故、貴方がたは僕を欺いたんですか?」


男の、唾を飲み込む音がした。


勘問を浴びせられた男の額には脂汗が滲んでいる、彼は一度かっと目を見開くと、やがて全てを観念したかのように大きく肩を落とした。


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「…あ…ぅ…っ…」


暫くその場を制したのは、陰暗で重たい空気だった。


「…仕方がなかったんだ。」


彼の告白に黙したまま、僕はゆっくり頷く。


そして洗いざらい白状する犯罪者(かれ)を、善良な刑事のように見守る。


…僕の『刑事ごっこ』に乗ってくれるこのおじさんは、割と良い人なのかもしれない。


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「…う…ううぅ…わたしは…」


「抗弁しなくて好いんですか?


 このままだと、極刑は免れませんよ…。」


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「…私はリナリーの父親なのだよ。」


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「‥‥‥‥‥‥へ?」


タキシードのおじさんはがっしり拳を握り締めると、たちまち饒舌になった。


「我が名高き門閥、『李(リー)家』は貴く『地位』『格式』『実力』を誇り、一国のみならず世界的な大規模貿易企業を繰り広げる名門中の名門である!


 先祖代々承継された称揚すべき『社交能力』と『組織経営能力』を駆使し、名家はより大きな発展を遂げる為…(得意げなうんちくが続く)」


終わりの見えない話に飽き果てたのか、ジェシカさんが横から言葉を挟む。


「簡潔に言うわ、今までのは『婿修行』だったのよ。」


「‥‥‥‥‥‥と言いますと?」


「あれは今から八年前。


 リナリーが結婚したいと言い出したときは、さすがに焦ったよ。」


再びリナリーの父親が話に割り込んできて、弁舌を振るう。


「名門の跡取り婿として君を迎えるには早すぎた、あの頃はまだ…。


 リナリーは私の大切な愛娘だ、気持ちは汲んでやりたかったが、そうむざむざ結婚させられない。


 そこで思いついたのが今回の目論見、八年越しの『婿修行』だったのだよ。」


「‥‥‥‥‥‥さようで。」


…繋がるようで繋がらない話だ、どうもこじつけのように思えてならない。


「でもほら、僕、さっきトラックに轢かれましたよね。


 あれはどうやって説明するんです?」


僕は意固地になって疑問を口にした、するとジェシカさんの眼目から凄まじい異光が放たれる。


「…ここで逢ったが百年目、それは私の仕業よ!」


古臭い言い回しは止めて欲しい、時代劇じゃあるまいし、切実にそう思った。


「…ふふ、まだ分からないの、かわいい坊や。


 貴方、ここに来る前にサイフォンで淹れたコーヒーを飲んだわよね?」


「…あ。」


「…貴方のアパートに忍び入った私は、コーヒーのなかに『アレ』を仕込んだのよ。」


「アレって…?」


僕はジェシカさんの言葉に思わず息を呑んだ。


「乾燥した麻の穂や葉に含まれる幻覚物質、THC(テトラヒドロカンナビノール)のことはご存知かしら?」


妖しく冷たいジェシカさんの視線、戦慄にわなないた僕の総身が、恐ろしさのあまりぶるぶる震え上がる。


「火を点けて燻った煙を吸引する、それが一般的な使用法なのだけど、舐めたり飲んだりしても十分効果は得られるのよね。


 さあ、それってな〜んだ?」


むむむ、なぞなぞ形式の出題で来たか、あ、もしかしてそれって…!


「はいはいっ!(挙手)先生っ!」


「じゃあアレン君、元気良く回答してね☆」


「答えは『禁止薬物』!」


「◎(ピンポーン)、大正解、良くできました♪」


わ〜い!…じゃなかった、いかんいかん、他人を乗せても自分は乗せられるな、なぞなぞして喜んでる場合じゃないだろ。


それに善く善く考えればTHCって、…大麻じゃないかっ!


それじゃあ…僕が見ていたものは…全部…幻覚…つまり…そういうことだったのか…?


住居不法侵入に薬物強要行為、姦悪すぎる、何て忌まわしいことをする一家なんだ。


巧妙な罠を仕掛ける父親、若い青年を非行に奔らせる母親、もうこれは只ごとじゃない、僕自身の体が危ない。


自分の凄惨な姿を想像して、ぞっと寒気がした。


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「まあ、そういう訳にして無事、『婿修行』を終えた君のことだが。


 まさしく非の打ちどころがない完璧な出来だったよ、『ある一点を除けば』の話だがね。」


…この期に及んでまだ何かあるのか。


「…パパ…。」


眉を曇らせたリナリーが両手を組んで、タキシードのおっさん、あ、いや、自分の父親の姿を祈るように見つめている。


「『娘に対する情熱度:200%
  男としての甲斐性度:80%
  セクシャルな魅力度:100%
  キスの上手さ度:120%』


 どれも平均を上回る数値で申し分ない、…だがしかし!!!
 

 ひとつだけ、どうしても不満に思うことがある。」


「…それは…何…ですか?」


「…君はちょっとばかし、おいたが過ぎる。


 手が早いのだよ、幼かった娘を騙してあんなことやこんなことをした…。


 まだ○○していない小さな○○に触って、○○の○○○を思う存分堪能し、固く○○した○○○を○○○れて、何度も何度も○○○たではないか…。」


「…うっ。」


…リナリーを騙したつもりはさらさらない。


だけどそれ以外は確かにそうだと思う、僕はぐうの音も出なくなった。(※Lolita〜愛少女〜『優しい雨音』参照)


「はっはっはっ、まあまあ、そんなに落ち込まんでくれたまえ。


 一番大切なのは君とリナリー、要するに当人同士の気持ちだ。


 娘の幸せ、その為なら過去のことなど水に流したい、そう思っているのだよ。」


「…じゃあ…じゃあ…!」


「…ああ、君が考えている通りだ。」


その瞬間、目の前にいるリナリーの父親が、後光を纏った貴顕紳士のように見えた。


僕みたいな愚民が近づくのも畏れ多い、エレガントな装い、スマートな立ち振るまい。


完璧だ、全てが完璧だ、素晴らしい父親だ。


これで今までの努力が報われる…


僕はリナリーと…遂に…


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「早速で悪いがアレン君、これに着替えてくれるかね。


 正式な形で君を我が家に迎え入れたいんだ。」


『正式な形』って、も、もしかして『結婚式』のことだろうか?


僕の思考はどんどんおめでたい方向に加速していく。


い、厭だなあ、お義父さんも気の早い人だ。


そうして僕はリナリーの父親が差し出した、黒いポリエチレン袋を受け取った。


にしても花婿衣裳を入れるのに、普通こんな、いかにも安っぽいポリ袋を使うものなのか?


何だかやけにかさばってるようだし…。


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それから五分後…。



「…あの…これは一体…」


「仮想二十一世紀、ここに黒羊ならぬ『灰羊男』生誕っ…!!!」


待ってましたとばかりに、リナリーの父親の激声が上がる。


「それは一族伝統の羊装束!!」
「それは一族伝統の羊装束!!」


リナリーとジェシカさんの息はぴったり協和して、二人の声がきれいな諧調(ハーモニー)を奏でた。


…灰羊男?…羊装束?


…何のことだか、さっぱり分からない。


放心状態のまま呆然と立ち尽くしている僕の横で、リナリーがそっと補足を入れてくれる。


「…えっと、うすうす勘づいてると思うんだけど。


 李(リー)家の人間は、名家の慣例として一個人につきひとりの執事を雇うことになっているの。


 十五歳を過ぎると専任執事(butler・バトラー)をつけて、教養を学ばなくっちゃいけないのよ。


 私のね、専任だった執事がちょうど辞めちゃって、それでパパはきっと…。」


…ちょっと待て、どっかで聞いたことのある話だ。


…羊…ひつじ…しつじ…執事…そうか…。


僕はがっくりうなだれた。


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「ふっふっふっ、これから君にはリナリーの専任執事としてみっちり働いてもらうよ。


 婿養子のことは、君の努力次第でもう一度考えてあげよう。


 さあ、君の『リナリーへの愛』を、私たちに見せてくれっ…!!!」


常軌を逸した笑劇(衝撃)の結末にあんぐり開いた口が塞がらない。


…こんなオチがあるか…何もかも…めちゃくちゃだ…。


精神的ショックを受けている僕に気づくようでもなく、頑張れよという意味なのか、リナリーの父親は肩をぽんぽん叩いてくる。


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…くそぅ…こうなったら『AKUMAで羊』でも『メイちゃんの羊』でも…何でも来い!


絶対リナリーと結婚してやるっ…!


「はいっ、灰羊男、やらせていただきますっ…!」


「アレンおにいちゃんっ…!」


僕はちょっとかわいい灰羊男の被りものをしたまま、湧き上がる決意にめらめらと燃えるのだった!!!


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以下、Ash・white『Love butler』に続く!!!


(…そんな訳ない、いや有るかも。)

 
おしまい...