想いに浮かぶ花


『さようなら、アレンおにいちゃん』

 
 
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ねえ、覚えている?


かわいらしい蕾をつけた、あの花たちが咲きそめる季節、小さな森を抜けた秘密基地で素敵な出会いをしたことを。


滑り台とブランコがある公園で、二人ベンチに座って微笑み合った日を。


青葉が香る夏の頃、あの人は赤いチェックのリボンをくれた。


吹きすさぶ嵐のなか、泣きじゃくる私を抱き締めてくれていた。


貴方と私は約束を交わした、青白い月に見守られて、叶うことのない約束を交わした。


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『報われない花束に接吻(くちづけ)を、愛しい貴方に哀別(さよなら)を』


「引っ越しをね、しようと思っているの。」 


ママは言う、わたしの顔を見ずに言う。


どうしていきなりそんな話をされたのか、わたしには分かる。


ママはきっと、わたしとアレンおにいちゃんのことを怒っているんだ。


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私には分かっていた。


全てを知ってしまった母は、私と彼が会うことを許さないだろう。


もしそれを無視したら、母がどうするか、彼がどうなるか。


そんなことは良く分かっていて、子供の私でも知っている。


嫌だと言うことはできない、母の言葉に黙って俯くだけだ。


おにいちゃんを困らせたくない、傷つけたくない。


大好きなあの人には、あの人が大好きな絵を。


いつまでも絵を描き続けて欲しいから、そうするしかなかった。


だから私は何も言わなかった。


あの、きれいな茜空を見上げる彼に、何も言えなかった―――