赤い月
注:本章は伏線回収の分岐ルート、本編と異なったもう一つの結末です、残酷表現を含む為、悲哀物語や血描写等に嫌悪感を持たれるお方の閲覧を推奨出来ません。
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密接な関係になった僕ら、想いを交わし合ったその行為のあとのことだ。
マントルピースに囲まれた暖炉の前で、僕たちは裸のまま、ひとつの布地に二人くるまって、ゆらゆら燃える炎をまじろぎもせず見ていた。
僕の心のなかに君はいる、君の心のなかに…僕はいるのかな…?
君が好きで、恋しくて、愛しくて…。
どこにも行って欲しくない、そんな思いばかりが渦巻いている。
払拭できない感情が大きく膨張していって、溜まりに溜まった気持ちを押し殺すことは、もはや不可能だった。
僕はどうしたって自分を騙し偽ることなんてできない。
こうして嘘を重ねても、そのうちやってくる未来に、君はいない。
だったら迷いたくない、ひと思いに伝えたい。
たとえそれが僕自身の手前勝手なエゴだったとしても。
遠ざかってしまう君、だからその前に、せめて…。
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「…リナリー、どうしても、聞いて欲しいことがあります。」
「…?」
小首をかしげる彼女の細い肩を抱きながら、熱の入った真摯な眼差しで僕は言う。
「…嘘なんて、つけない。
すみません…。
僕は貴女を『愛しています』、他の何より、だれよりも。」
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濃紫の目は左右に泳ぎ、リナリーは視線を宙に彷徨わせていた。
何かに怯えるように狼狽えている彼女だったが、程なくして、ぱっと僕を見上げて優しい笑みをたたえる。
「…うん、私も、おんなじ気持ち。」
どうすれば良かったとか、そんなことは分からない。
でも彼女と繋がってしまった僕は、その存在を失うのがますます怖くなってしまった。
僕は多分、淡い期待、幻想を抱いていたんだと思う。
立ち塞がる壁は自ら壊していけばいい、不確かな前途を暗中模索しながらも、打開策を求めてあがく。
『人間と吸血鬼』、僕らが共存できる方法を、これから一緒に考えて探して…。
二人で支え合っていけば、どんな困難だって乗り越えられるんじゃないか…?
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そんな想いを何もかも見透かしている目が、僕の方を見ていた。
彼女の目の様子、穏やかな表情が一変して、正視できないくらいの悲痛なものになる。
哀し気な声が、そっと彼女の唇から漏れた。
「 …私も愛しているよ…
…君のこと…世界で一番…」
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刹那のときにそれは起こった。
ぐさりと差し込まれる鋭い音、眼前の光景を視て、僕は絶句した。
思考が切断される。
彼女が、あるものを胸に押し当てている。
「…リナリー…君は…何を…」
僕の身体に力なく項垂れる彼女、真っ赤な鮮血がその胸部からだらだらと滴り落ちている。
彼女の胸には杭が刺さっていた、それも左胸の心臓に、あの『大切なお守り』の細長い宝石が…。
『心臓に聖杭を打てば不死身の吸血鬼は死ぬ』
彼女はその杭を欠かさず持ち歩いていた、いつでも生命を断ち切れるように、無限に続く『永久』に終わりのピリオドを打てるように。
「…リナリー…リナリーっ…!」
僕は彼女の肩を前後に揺さぶる、喉がちぎれるくらいの叫声を上げても、瞼は固く閉ざされたままだ。
…すでに彼女は息をしていなかった。
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僕はどのくらいの間、彼女の横に座り込んでいただろうか。
彼女が目覚めることを待っていたのか、それとも…。
ぼーっとした思考のなかでも、僕の『言葉』のせいで彼女は自ら行動を起こしてしまった、その事実だけは理解できた。
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ふと、こんな夢をみた。
清らかなチャペルの鐘が鳴り響くなか、聖堂内には、純白のウェディングドレスを纏った君が祭壇にいて、ホワイトタキシードを着た僕が隣にいる。
そこで緊張混じりの僕は彼女の細い薬指に、煌びやかな装飾の指輪を嵌めていく。
それから豪華な刺繍をあしらったベールを、花婿の僕が丁寧に上げる。
花嫁の君は頬を赤らめて僕を見つめる、僕も顔を赤くして君を見つめる。
気を張り詰めすぎてぎこちなくがちがちの僕のことを、君はくすくす笑うんだ。
沢山のひとたちが僕らを祝福してくれて、二人はそのなかで愛の誓い、聖なるキスを交わす。
そう、これは束の間に見た僕の幻(ゆめ)。
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死なせたのは僕だ。
僕の言葉はこの杭のようにリナリーを突き刺し、そして彼女に引き金を引かせた。
夢から醒めたあと、僕はもう、一切のことを考えることができなくなっていた。
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後悔、そして虚無とはなんだろう。
真っ暗な思考、虚ろな意志。
そうして僕は、彼女の胸に刺さっていた杭を引き抜き、それを自分の左胸に思い切り突き刺す。
肉身を裂き抉る感覚、電流のような痛みとともに、視界が霞んでいく。
混濁していく意識のなか、僕は君と初めて会った夜を思い出していた。
柔らかく微笑む君、美しかった君、それは儚い月の光のようで。
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これから僕も、君に会いに行く…
君を孤独になんかしたり、しない…
だって、こんなに僕らは愛し合っているのだから、幸せに…幸せになら…なきゃ…
…運命に…抗えなかったとしても…僕は君を…だれより…愛して…
僕の身体は床に頭から突っ伏してがくりと崩れ落ちる。
血溜まりのなか、じきに目の前がだんだん暗くなって、僕はゆっくり広がる黒闇に飲み込まれ、それから全てがぷつりと途絶えた。
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最愛のひと、ジュリエットの死を悼んで、ロミオは自らの命を絶つ。
僕らの物語、この最終楽章(ラストシーン)は…。
ウィリアム・シェイクスピアが著述した、和解できなかった両家、モンタギュー家とキャピュレット家、その争いの犠牲になった、それぞれの息子と娘の二人…。
哀れな悲劇が生んだ、『ロミオとジュリエット』の結末に、どこか似ていたーーー
End...
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