第五夜
悲しみや寂しさ、そうした感傷は、あとからじわじわやってくる。
どうして彼は来なくなってしまったのだろう。
こんなことになってしまったのは、自分のせいなのか、あの告白のせいなのか。
彼に会えなくなってから、解けない疑問たちが頭のなかでぐるぐると堂々巡りしている。
一日一日、日を追うごとに、あの不安が現実のものになっていくような気がした。
アレンくんのいない公園のベンチ、そこにひとりぽつねんと座っていると思い知らされる。
私にとって、彼がどれだけ大切な存在だったのか、ひどく思い知らされる。
†††
私の通う私立高では十二月二十四日の今日、第二学期の終業式が執り行われた。
通信簿を受け取ったクラスメートたちはこれからの冬休み、待ちに待ったイヴをどう過ごすか、そうした談話に花を咲かせて、みんな快く楽しげな様子だった。
平常より少し早い下校時刻になり、校門を出て道幅の広いメインストリートを通ると、赤、白、緑の彩りが目についた。
どこもかしこもオーナメントを派手に施した、さまざまな大きさの樅の木が飾られている。
街のイルミネーションはさらに輝きを増していた。
サンタの衣装を着たどこかの店の販売員、肩を寄せ合う恋人同士の姿が、いやというほど視界に入ってくる。
今日はイエス・キリスト誕生の前夜祭、家族や友人、そして恋人、そんな大切な人と過ごすクリスマス・イヴ。
自分には関係ないと思っていた『特別な日』。
クリスマスムードに賑わう街並みをぼんやり眺めながら、他に行く先などない私はとぼとぼとあの公園に向かった。
†††
肌寒い夕暮れどきになると、公園の前の歩道が忙しなくなった。
通りすがる人たちは年に一度だけの今日を暖かい家で過ごそうとしているのか、その手にケーキやプレゼントらしき袋を提げて急ぎ足で帰路につく。
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人通りが絶えない道の片隅で、顔をくしゃくしゃにして泣いている女性がいる。
他人の目も憚らず号泣する彼女に、だれもがみな振り向く。
あの人にも何か悲しいことがあったのだろうか。
今の私と同じように寂しい気持ちなのだろうか。
声を上げて泣いている女性は、鏡に映し出された私、何だか自分自身を見ているようだった。
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「ばかだよね…」
打ち明かした想いの答え、そんなものはとっくに出ている。
私が告白をしたその翌日から、彼は公園に来なくなった。
それはひとつの結果、この初恋は終わった。
胸の奥をきゅんと締めつける、もどかしい気持ち、それが何なのかもよく解らないまま終わった。
もしたら最初で最後かもしれない恋の結末(おわり)。
別に何ということはない。
ただ元通りの生活に戻るだけ、もっぱら勉強する以前の私に戻るだけじゃない。
そうやってあべこべに強がってみても虚しくなるばかりだ。
とことんまで諦めが悪い自分に苦笑するしかない。
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やがて夜の帳が下り、見渡す世界が蒼い闇に包まれると前の歩道には、だれひとり通らなくなった。
そしてだだっぴろい公園にいるのも私ひとりだけ。
そのうち低く立ち込めた乱層雲から、白い結晶がちらついてきた。
この冬、初めて降る雪だ。
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「『特別な日』なんて関係ない、って言うより、ますます嫌いになったかな…。」
ひんやり冷えたベンチに座ってそう呟いてみても、その言葉にはだれも答えてくれない、もう隣に彼の笑顔はない。
泣きたいときは泣けばいい。
ここにはだれもいないのだから、声をめいっぱい張り上げて、わんわん泣いてしまえばいい。
それでも涙を流せないのは、まだ、私…。
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ふと、公園の端っこに設えてある大きな時計を見上げた。
…すでに十一時半を回っている、もうすぐイヴも終わってしまう。
本音を言うと、今日という今日はアレンくんと一緒にいたかった。
彼と『特別な日』を過ごせば、こんな私でもきっと何か変われるはず、そう思っていたから。
でも私は、やっぱり私には、何も変えることができなかった。
優しさや温かさを知ってしまったあとの孤独(ひとり)は辛くて痛い。
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「もう帰ろう…。」
しっとり降り出した粉雪みたいに、この想いも残らず全て、溶けてなくなってしまえば好いのに。
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「こんばんは、リナリー…。」
ベンチから離れたとき、穏やかな声音に私は名前を呼ばれた。
おもむろに振り返るとそこには彼がいた、白い少年がいつものように優しく微笑んでいた―――
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