+Love Mission


「魔力供給を更に高めるだって…?」


やにわに瞠目したアーチャーは、面前に居る少女、凛が発した言葉に、それが自身の聞き違いでは無いかと耳を疑った。


魔術師がその力に因り、現世に召喚した使い魔。


『マスター』の継続的な魔力を充てがわれて、『サーヴァント』はその身を現界させる事が可能になる。


彼女、『遠坂凛』は、今正にそれ以上を越えようとしていた。


―――彼女の主張は理解出来た、が、やはり…


もう一遍、彼女の言葉を反芻する。


[私達がお互いの身体を交えれば、もっと強大な魔力を貴方に提供出来る]


身体を交える…


身体を繋げる…


確かに理屈では筋が通る話だ。


魔術師側から分泌される体液に触れれば、サーヴァント側への魔力提供量は絶大に増強すると云っても過言では無い。


定めてそうだが、『交える』と云う意味を、若し自分が履き違えていなければ、それは些か対応に困る難題で有る。


・
・
・
「…凛。


 君は自分が口にしている言葉を、良く理解しているのか?」


「…っ、もうっ!


 勿論それ位、ちゃんと分かってるわよっ!」


顔から火が出そうな程、赤面しながら立腹する凛を見て、一応の解釈は合っているのだと彼は把握した。


―――だが…


「君はそんなに聖杯戦争の勝者になりたいのか?


 自分の身を削って…。」


アーチャーが溜め息混じりに言葉を返す。


「それは…


 遠坂家一心の悲願の為だもの…


 って、当たり前の事、わざわざ聞かないでよっ…!」


―――何を突然言い出すかと思えば。


何処かお人好しで稀にどじを踏むが、芯の強い気丈な少女。


そんな彼女の事を、俺は快く思っている。


この感情が、未だ自分ですら何なのか考えあぐねている。


彼女に惹かれていない訳では無い。


しかし…


幾らどの様な事情だろうと、サーヴァントがマスターに手を出す…?


あれこれ思考を巡らせてみたが、彼の気持ちは確固として変わらずだ。


「駄目だ、それは出来ない。」


凛にきっぱりと、そう言い放った。


・
・
・
「…私が…杯』の為だけに…こんな事…言ったと思っているの…?」


機嫌を損ねてしまった様なのか、彼女の声はくぐもっていて、小さくか細いものだった。


「済まん、所々聞き取れなかった。」


・
・
・
「…だから…っ!」


彼女からの提案、彼女との関係、凛が何方に対して拒まれたと感じたのか、アーチャーには見当が付かなかった。


「凛、少し落ち着け、君らしくない…」


俯いた様子でわななき震える少女に、彼は曲り形にも説き諭そうとする。


「その必要性は無い、君の魔力は十分過ぎる位、俺に力を与えてくれてい…


バシッ…


凛の肩に触れようとした途端、アーチャーの手が勢い良く撥ね除けられる。


面を上げた凛の表情は、涙を潤ませながらも毅然としていた。


彼女がこの顔を見せる時は、何を言っても無駄なのだと、今更だが彼は良く知っている。


「…だからな…その…」


アーチャーが如何にか宥めようとするも、彼女の憤りは暫く収まりそうになかった。


・
・
・
「…っ、あったまきた!」


大胆に思い切った凛は、深紅の色濃い紋章が刻まれた手の甲を、アーチャーの眼前に逸速く突き出した。


「…おい、まさかとは思うが…」


推して知るべし、彼の予測はつぶさに的中してしまう。


「…好い、絶対命令権は私に在るのよ?


『令呪を以て命ずる…


 つべこべ言わず…


 今直ぐ私と繋がりなさい!』」


彼女の喚呼と共に、紅い閃影がアーチャーの全身を包み覆う。


「…!?


 正気か、下らん事に令呪を…っ…」


・
・
・
「『重ねて令呪を以て命ずる…


 私の命令に服従しなさい!!』」


「…使うなっ…凛!!」


気鋭の彼とて、令呪による命は強制効果が烈しく、その上二度に及び、となると、マスターに逆らう行為自体が至難の業だと云えよう。


・
・
・
「…下らなくなんて…無いんだから…


 …私…私は…アーチャーが…!」



―――…不味い事になった。


とんでもない事態に陥り、途端に総身の制御がさっと失われて行く中、アーチャーは必死の抵抗を試みた。


・
・
・
ドン…


けれどもそれさえ敢え無く、一瞬の後には、彼が凛を床に組み敷き、彼女の華奢な両手首をがっしり押さえ付ける体勢を自ら取っている形になっていた。


・
・
・
「…君は、本当に馬鹿だ…」


酷い眩暈が彼を襲い、その心臓はどくどく脈打っている。


「…アーチャー…」


自身の腕の中の少女は、ほんのり頬を紅潮させ、生やかな面差しで彼を仰向き見つめていた。


―――…殊更惑わされ、煽られている、そうした甘い錯覚に囚われる…


令呪の反動を受けて呼吸が荒く乱れ、肩で息衝くアーチャーは、すっかり大人しくなり恥じらいで縮こまった凛を、伏し目がちに見下ろした。


思考が霞掛かり、頭は上手く回らない状態だった。


「…あ…あの…アーチャー…


 …こんな時だから…なんだけど…


 …好き…とか…言っちゃ駄目…?」


「…っ…今…それを言うのは…反則だろ…」


―――…そろそろ我慢の限界が訪れそうだ。


・
・
・
「…手加減の保証はしないぞ…?」


決壊した理性で彼が切な気に訊くと、凛は面映ゆく黙した儘、こくりと頷いた。


―――…とても堪えられそうにないな…。


そんな想いを揺らめかせ、彼女の薄ら熱を帯びた額に、アーチャーは口付けを一つ、ゆっくりと落とした。


直に二人の瑞々しい口唇が重なり合い、それは次第に互いを強く求め、互いを貪り尽くす様な情熱を秘め、益々深くなって行く…―――



・
・
・
・
・
後から凛が自業自得の泣きを見る羽目になったのは、論ずる迄も無い。


これが猛々しい野獣を自らの令呪で解き放ってしまった、彼女の必然の結果だったのだから…。《END》


†ずっと書きたかった令呪強制ネタですが、とにかく文章が長くなってしまったので、大分端折りました;