Marriage and cohabitation〜薬指の約束〜
 
 
「おかえりなさいっ!」


ぱたぱたと足音を立てて、玄関先に向かった私が満面笑顔で迎えると、セイジュはにっこり微笑み返してくれた。


「ただいま、アーシェ。」


異世界(ここ)に飛ばされてきてから魔力が全くなくなってしまった私。


そんな私を、悪魔の忌み敵、天使から守った為、魔力をなくしてしまったセイジュ。


私はそもそも『魔王候補』であるレニかセイジュのどちらかを連れて、危急に晒されていた魔界へ帰還するつもりだった。


だけど、力の消失とともに次期魔王の資格までなくしたセイジュの傍を、どうしても離れることができなかった。


レ二は私たちを見るに見兼ねて、恩恵を施してくれた。


そうしてこの世界、人間界に二人、留まることができた。


レニと使い魔のカイルが魔界に戻ってからは、まだ結婚もしていないのにまるで新婚生活を送っているかのよう。


どの夜も毎晩、べったりくっつき合って、いっぱいいっぱいキスをする。


セイジュは私を幸せにするんだって、学校を卒業して早々大手有名企業の会社勤めを始めた。


セイジュがお仕事のときはマンションの部屋にひとりぼっちで、ちょっぴり寂しいけど、彼がうちに帰ってきたらその分いっぱいいっぱい甘える。


寂しんぼうで甘えたな私を、セイジュは精一杯の愛で応えてくれる、優しく変わらない愛で包み込んでくれる。


だから私はセイジュの為に、苦手なお料理だって頑張って学んで、花嫁修行に勤しんでいる真っただ中だったりする。


「ねぇねぇ、セイジュ!」


スーツのジャケットをハンガーに掛けたセイジュの横に、夕食を盛りつけたお皿を持って駆け寄る。


「今日の晩ご飯ね、こんなに上手にできたんだよ!」


セイジュは私の手料理を見て、ほんの暫くきょとんとしていた。


「冷めないうちに早く食べよう、ね?」


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「…。」


どうしたんだろう…?


「…くっくっくっ…。」


セイジュ、笑いを堪えてる…?


「…んと、出来映え悪いかな?」


「ううん、違うよ、ただアーシェがかわいいと思って。」


「…えっ?」


綺麗なエメラルドグリーンの瞳が私を覗くから、思わずどぎまぎしてしまった。


「アーシェ、ホットケーキはおやつだよ。」


困ったように苦笑するセイジュに私は慌てて立ち騒いだ。


「あ、そうだよね!


 つ、作り直してくるっ!」


今にも逃げ出してしまいたいくらいのみっともなさ、顔じゅう真っ赤になった私はお皿をキッチンに戻そうとした。


・
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ぐい―――


セイジュが笑顔を崩さないまま、私の腕を掴んで自分の正面に向けさせる。


それからお皿のホットケーキをまじまじ見つめながら私に尋ねる。


「このホットケーキの上に盛りつけてあるのはなあに?」


…それはいつだか一緒に半分ずつ食べた、あのヨーグルト味を似せて作ったもの。



「えっと、これはね、生クリームと『だぶるべーり』のヨーグルトだよ。」


「『ダブルベリー』ね。」


「だぶるーべり…。」


「『ダブルベリー』。」


もともと魔界人の私は、人間語の横文字だけは、口にしようとするとどうしても言葉が縺れてしまう。


「あはは、アーシェ、君って本当にかわいい。」



セイジュはホットケーキのお皿をテーブルにことんと置くと、ふんわり私の唇を奪った。


熱を含んだセイジュの舌が滑り込んできて、私を玩味するように、口内を艶めかしく舐め回される。


「んっ、セイ…」


・
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長くて蕩けるような口づけ、ようやく離れた私の唇の唾液を拭い、彼が言う。


「今夜の夕食はこれにしよう。」


そう耳元で囁かれて、全身の肌が粟立ち、胸が切なく締めつけられる。


「このホットケーキは、そう…、今の僕らのように甘くて美味しそうだね…。」


「…うん、うんっ!」


私は穏やかに微笑むセイジュの体にがっしりしがみついて、彼の体温をきゅっと確かめた。


いつかセイジュが私に言った薬指の約束、結婚まで私たち、後もう少しだね―――
 
 
†アーシェって素直で可愛い女の子だなぁ…


私が男だったら絶対お嫁さんにしたい!!!


『UTM』本編で男性キャラ達がアーシェにメロメロになっちゃう気持ち、よ〜く分かりますv